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読書の記録と雑談
風に舞いあがるビニールシート/森絵都
2010年03月23日 (火) | 編集 |
4167741032風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)
文藝春秋 2009-04-10

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才能豊かなパティシエに振り回されたり、犬のボランティアの為に水商売をしたり、難民支援の国際機関で夫婦のあり方に苦しんだり・・・。
自分の価値観を守る為に懸命に生きる人々を描いた短編集。


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第135回直木賞受賞作。
風変わりなタイトルのこの本がずっと気になっていたのですが、まさか森絵都さんの作品だとは思いませんでした。
森さんといえばもっとファンタスティックというか可愛らしいというか、そういう作品を書く方という印象でしたが、このお話は随分とリアルです。
決して甘くはない現実世界で生きる人々を描いていました。
登場人物達が全て好印象というわけではありませんが、共感は出来なくても納得は出来るという感じだったように思います。

表題作「風に舞いあがるビニールシート」は、難民救済を支援する国際機関で働く理佳が主人公。
好条件だった職場からあえて転職してきた彼女が、難民救済の現場で活動するエドと知り合い結婚しました。
テロや暴動の起こる危険な最前線で働くことに意義を見出しているエドと、そういう場での活動を拒む理佳の価値観は全く違い、結婚生活は上手くいきません。
話し合いの末離婚ということになりましたがそれは前向きな選択でした。
けれど間もなくエドは現地で少女を庇い命を落としてしまいます。
エドを失った悲しみを抱え、少しずつ理佳はエドの気持ちを理解するようになりました。

タイトルは、戦争や暴動といったものに否応なしに飲み込まれ、なすすべもない罪なき人々を例えたものでした。
時々風で空をフワフワしているビニール袋を頭の中に描いていた私にはちょっとショッキングな内容でしたね。
誰しも難しく重い問題は見て見ぬふりをしてしまいがちです。
もちろん私もそう。
それではいけないと思っていても、一歩を踏み出すのは相当難しいことです。

一番好きだったお話は「ジェネレーションX」
仕事に振り回されるサラリーマンが、学生時代の仲間との約束を果たそうとするお話です。
社会に出ればどうしても仕事優先で上司の命令には逆らえない。
プライベートな顔と仕事の顔があるのも当たり前。
だけどそんな中でも約束を守ろうと奮闘する青年達が頼もしく見えました。
そしてそんな彼等を後押ししてしまう中年サラリーマン。
世代を超えたささやかな友情に、何だかとてもすっきりと気持ちのよい読後感が残りました。
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2010/03/23 23:38 | 森絵都 | Comment (0) Trackback (0) | Top▲
アーモンド入りチョコレートのワルツ/森絵都
2008年12月20日 (土) | 編集 |
4043791011アーモンド入りチョコレートのワルツ (角川文庫)
森 絵都
角川書店 2005-06-25

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少年達だけで毎年集まる夏の別荘。
その時間を失いたくないために悩みを抱えてしまう「子供は眠る」。
不眠症の少年と虚言癖を持つ少女の淡い恋物語「彼女のアリア」。
ピアノ教室に突然現れたフランス人のおじさんをめぐる「アーモンド入りチョコレートのワルツ」。
クラシック音楽を背景に綴られる心優しい物語。


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リンク画像のデザインが私の読んだものと違うのがちょっと寂しい・・・(^^;)
ピンクベースで、五線譜の上に蝶が踊るデザインが可愛くて気に入ってたのになぁ。

森さんの作品を読むのはこれで2冊目です。
前回「カラフル」という本を読んだ時に惹かれるものがありました。
何となく内容が子供っぽい?というイメージもあるのに、実は全然そんなことなくて、何かそのギャップみたいなものが不思議で面白いのです。

小学生から中学生の子供達を主人公にした3編。
どの作品の中にもクラシックの音楽が流れています。
シューマン、バッハ、サティ・・・名前は知ってるけど音楽まで浮かばない(^^;)
子供達にはあまり縁のなさそうなこれらの曲が普通に組み込まれていて、何だかそれが日常を特別なものにしている気がしました。

大人になると忘れてしまいがちですが、子供には子供の世界があって色んなことを考えています。
時には大人には理解しがたいことでも、きっと子供達には大事なのでしょう。
もしかしたら子供達の方がよっぽど大人なのかもしれません。
実は本当のことをちゃんとわかっているから。
あるいはちゃんと気付くことが出来るから。

この本に出てくる子供達のような体験を自分がしたわけではないのに、自分の思い出の中にあったような気がしてきてしまいます。
子供の頃のささやかでキラキラな思い出。
切なくて楽しいたくさんの出来事。
全てを覚えていることなんて多分出来ないけど、そのいくつかでも持ち続けていられたら素敵だと思います。

ピアノ教室に現れたフランス人のおじさんは最後に子供達にこう言います。

- アーモンド入りチョコレートのように生きていきなさい -

さて、この意味は・・・?
考え込まずにさくっと心に落とせばよいのかもしれませんね(^^;)
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2008/12/20 10:43 | 森絵都 | Comment (2) Trackback (1) | Top▲
カラフル/森絵都
2008年07月07日 (月) | 編集 |
4167741016カラフル (文春文庫 も 20-1)
森 絵都
文藝春秋 2007-09-04

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生前の罪により輪廻のサイクルから外された僕の魂は、天使業界の抽選に当たり再挑戦のチャンスを得た。
自殺した少年・真の身体にホームステイしながら生前の罪を思い出さなくてはならないことに。
真として過ごすうちに、僕には色んな真実が見えてくるようになる。


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とても素敵なお話だったと思います。
生前に罪を犯した魂とか、自殺を図った少年とか、扱う内容はどこか重い感じなのに、最初から風変わりな天使が登場してきたのであまり暗くはなりませんでした。
僕の語り口調も結構面白いし。

罪を犯して死んだ為に転生を許されなくなっていた僕の魂が、天使業界の抽選に当たった為にもう一度チャンスを与えられる。
なんていきなりファンジックな始まりです。
あの世にもそんなイベントがあるなんて思わないよ~(笑)
既に前世の記憶をなくしていた僕は特に再挑戦の意思はなかったけれど辞退は許されません。
天使のボスが決めた人間の身体に入り、その人間として過ごしながら前世の記憶を思い出す、という再挑戦をすることに。
何に再挑戦なのかが微妙ですが、人生の再挑戦かな・・・。
思い出せればまた転生することが可能だし、思い出せなければこのまま消滅してしまいます。
そして僕に与えられたのは小林真ととう、自殺した少年の身体とその家族でした。
真の魂が身体から出るのと入れ替わりに僕が入り込み、一定期間を真として過ごします。
けれど自殺を図ったからには真少年には苦悩があったわけで、僕はそれを引き継がなくてはなりません。
真の自殺の原因、そしてそれらの側面から見えてきた別の真実。
僕は真として過ごしながら、だんだんと色んなことに気付いていきました。

私は僕や真と同じ体験をしたことがあるわけではありません。
けれど彼らの心情が、何故かすごくしっくりと理解出来るような気がしました。
だから違和感が全くなかったんですね。
森さんの描く心情にはかなり共感出来る部分が多かったです。
生前の僕の罪は、何となく途中で想像がついてしまいました(当たってました)
でも最後までドキドキと読めたし、気持ちの良い読後感が残りました。

私はここに登場してくる天使の“プラプラ”がお気に入りです。
僕の再挑戦をガイドする役目の天使です。
天上にいる時はですます調の丁寧な言葉で喋り、白い衣に白い羽のいかにもな天使。
でも地上に降りると言葉使いも乱暴になり、何だか普通のサラリーマンみたいなんですもん。
トレンチコートに白いフリフリの日傘を差しているトコとか(配給品で本人の趣味ではないらしい)、実は優しくて意地っ張りなトコとか、何か可愛いんですよね~。

で、後書きを阿川佐和子さんが書いてらっしゃいました。
この作品は映画化されていて、阿川さんは真のお母さん役だったそうです。
真役を誰がやっていたか伏せているので気になって調べてみたら、田中聖君でした。
もちろんKAT-TUNのね。
ちょっと驚きましたが、映画も見てみたいなぁ。
かなり昔の映画みたいですが(^^;)
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2008/07/07 23:29 | 森絵都 | Comment (0) Trackback (0) | Top▲